四谷の千枚田の背後にそびえるのは、標高883メートルの鞍掛山です。この千枚田が数百年もの長きにわたり干上がることなく豊かな水をたたえ続けている秘密は、まさにこの鞍掛山がもたらす豊富な湧水にあります。
山麓から湧き出るミネラル豊富な清流は、山肌に築かれた無数の水路を通じて、一番上の田から下の田へとリレーのように引き継がれていきます。地元保存会関係者の解説によると、「水温が低すぎると稲の生育に影響するため、太陽の光を浴びせながらゆっくりと棚田を巡らせる先人の知恵が今も生きている」とのこと。この清冽な水環境ゆえに、棚田周辺にはサワガニやカエル、さらには初夏にはホタルが舞うほど豊かな生態系が保たれています。
かつて明治37年(1904年)の豪雨による山崩れで甚大な被害を受けながらも、先人たちが石を一つひとつ積み上げて復興させた歴史を持つ四谷の千枚田。現在では約22戸の農家や保存会、都市部からの棚田オーナー制度の参加者によって、約420枚の水田が維持・耕作されています。現在の様子を現地で観察すると、全国各地で棚田の耕作放棄が社会問題化するなかでも、美しい石積みが手入れされ、清流のせせらぎとともに力強く命を育んでいる風景を目の当たりにすることができます。