顔全体が丸く膨らむ現象について、単なる体重増加や水分の滞留と混同されるケースが後を絶ちません。しかし、満月様顔貌の原因は、体内におけるホルモンバランスと代謝機能の劇的な変動にあります。
医療現場において最も頻繁に遭遇するのが、ステロイド副作用によるムーンフェイスです。全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病、ネフローゼ症候群、重症喘息、皮膚疾患の治療で広く用いられるプレドニン(一般名:プレドニゾロン)は、極めて強力な抗炎症・免疫抑制作用を持つ反面、副腎皮質ホルモン(コルチゾール)と同一の働きを体内で示します。
高用量のステロイドが体内に入ると、脂肪代謝に急激な偏りが生じます。手足などの末梢組織では脂肪が分解されやすくなる一方で、なぜか顔面(特に頬や顎下)、首の後ろから肩(野牛肩・バッファローハンプ)、腹部などの中心部に選択的に脂肪が過剰沈着する「中心性肥満」が引き起こされます。これが、プレドニゾロン副作用で顔が丸くなる生物学的なメカニズムです。
一方、薬剤の服用経験がないにもかかわらず同様の症状が進行する場合、内分泌疾患であるクッシング症候群の症状が疑われます。これは下垂体腺腫(クッシング病)や副腎腫瘍などにより、自律的にコルチゾールが過剰分泌され続ける病態です。高血圧、耐糖能異常(糖尿病)、皮膚の菲薄化、紫色の皮膚線条(ひび割れのような筋)を伴いながら、特徴的な満月様顔貌が徐々に形成されていきます。いずれのケースにおいても、個人の自己管理不足や食べ過ぎが引き起こしたものではなく、血中ホルモン動態の乱れによる代謝の異常沈着であるという客観的事実を認識することが不可欠です。