長年にわたり新潮社などの文庫本を通じて親しまれてきた本作だが、出版業界をめぐる環境の変化に伴い、その届き方は多様化を極めている。著作権保護期間の満了により、電子図書館である青空文庫では誰もが手軽にテキストへアクセスできるようになった。紙の質感を愛する読者からスマホ世代まで、作品との接点は広がっている。
とりわけ近年勢いを増しているのが、プロのナレーターが朗読するAudibleをはじめとする音声コンテンツだ。日記体小説という性質上、一人称で語られる進の青臭くも熱い独白は、耳で聴くことで圧倒的な臨場感を伴って胸に響く。デジタルメディアの隆盛が、80年以上前の名文に新たな息吹を吹き込んでいるのだ。