ネット上の情報や一般的な企業神話には、法的な根拠を欠く誤解が蔓延しています。トラブルに巻き込まれた際に不利な選択を避けるため、代表的な3つの誤解を正しておきましょう。
誤解1:「退職届を出してしまったら二度と争えない」
「一度自発的に退職届を出したら、どんな理由があっても撤回できない」と信じ込まれがちですが、必ずしもそうではありません。民法上の「詐欺」や「強迫」、あるいは「重大な錯誤」によって提出させられた退職届は無効を主張できます。過去の判例でも、虚偽の事実(「残っても給与を半減する」「解雇になれば再就職は不可能」など)を告げられてサインさせられたケースでは、合意解約の無効や損害賠償請求が認められた判例が複数存在します。
誤解2:「会社からの退職勧奨には従う義務がある」
退職勧奨の違法性に関する明確な境界線を知る必要があります。最高裁判所の判例(下関商業高校事件など)において、使用者が労働者に退職を勧める行為そのものは「自由な意思決定を促す範囲内」であれば適法とされています。しかし、以下のような態様は「違法な退職強要」とみなされます。
- 労働者が明確に拒絶しているにもかかわらず、執拗・長期にわたって面談を繰り返す行為
- 多人数で取り囲み、大声で恫喝したり人格を否定する暴言を吐く行為
- 退職に応じない報復として、仕事を取り上げたり孤立させる配置転換を行う行為
退職勧奨はあくまで「お願い(打診)」に過ぎず、労働者には「拒否する絶対的な権利」があります。合意しない限り、会社側は一方的に労働者を辞めさせることはできません。
誤解3:「依願退職の履歴書への記載義務」の真実
転職活動における依願退職の履歴書の書き方についても不安を抱く人が多くいます。結論から言えば、民間企業における一般的な依願退職であれば、履歴書の職歴欄には通常通り「一身上の都合により退職」と記載すれば問題ありません。「依願退職」とわざわざ書く必要はなく、採用担当者に余計な詮索を抱かせるリスクを避けるのが実務上の定石です。
ただし、公務員を辞職した場合や、重大な懲戒処分を回避するために依願退職を選択した場合、賞罰欄のあるフォーマットや採用面接での直接の質問に対して虚偽を述べると「経歴詐称」に問われるリスクがあります。不祥事による退職ではない正当な転職であれば、退職理由を簡潔に説明し、次の職場でどう貢献できるかに焦点を当てることが肝要です。