家庭調理において最も事故が起きやすいのが、「すべての具材と調味料を圧力鍋に放り込んで一度に煮込む」という誤った調理法です。圧力鍋の事故報告や失敗レビューの約8割がこの初歩的なミスに起因しています。
まず徹底すべきは、市販ルーの後入れタイミングです。市販の固形ルーやデミグラスソースには小麦粉やデンプン質の増粘剤が多量に含まれています。これらを加圧前に入れてフタをしてしまうと、高圧・高温の対流が妨げられ、重いデンプン質が鍋底に沈殿します。その結果、センサーが異常高温を検知して安全装置が作動したり、わずか数分で真っ黒に炭化して鍋底が致命的な焦げ付きを起こします。ルーは必ず「肉と香味野菜の加圧が終わり、圧力が完全に抜けてフタを開けた後」に、火を止めて少し粗熱を取ってから割り入れなければなりません。
もうひとつの深刻な失敗が、じゃがいもや人参の煮崩れです。牛肉を柔らかくするために20分以上の高圧をかけると、根菜類のペクチン細胞壁は完全に破壊され、スープの中に溶けてドロドロになってしまいます。プロが実践する野菜の煮崩れ防止テクニックは「時間差の二段階投入」です。
肉を煮込む第一段階では、香味付けのためのセロリや玉ねぎの薄切りだけを肉と一緒に加圧します。ゴロゴロとした食感を楽しみたい人参、じゃがいも、ペコロス(小玉ねぎ)は、肉の加圧が完了したあとの第二段階で投入します。具体的には、肉を取り出して野菜だけを圧力鍋の加圧時間目安として3〜5分の超低圧・短時間加圧にかけるか、あるいはフタをせずにルーと一緒に弱火で15分ほど優しく煮込む手法をとります。この一手間を惜しまないだけで、形が美しく保たれ、角が立ったまま中までスプーンがスッと入る極上の仕立てが実現します。