1996年、山村美紗がホテルニューオータニの執筆室で急逝したニュースは、日本中に大きな衝撃を与えた。あまりにも突然の別れに、誰よりも深い喪失感を抱いたのは西村京太郎だった。
山村の遺品の中には、書きかけの未完原稿が残されていた。その遺稿を完成させる大役を引き受けたのが西村である。山村の独特な文体をトレースし、彼女が描こうとしていた結末を自らの手で紡ぎ出す作業は、筆舌に尽くしがたい精神的苦痛を伴うものだったという。しかし西村は「彼女の作品を未完のまま終わらせるわけにはいかない」と筆を執り続けた。完成した作品は、二人の魂が最後に交わした対話の結晶として、ミステリ史に深く刻まれている。