離乳食の進め方において、これほど明確に年齢制限が敷かれている食材は他に類を見ません。はちみつを1歳未満に与えてはならない理由は、土壌や自然界に広く存在する「ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)」が引き起こす乳児ボツリヌス症を防ぐためです。
厚生労働省の公式発表資料や感染症の専門データによると、ボツリヌス菌は自然界において「芽胞(がほう)」と呼ばれる極めて硬い殻に包まれた状態で存在しています。大人の場合、すでに腸内環境が整っており、多様な腸内細菌叢(腸内フローラ)が形成されているため、仮にはちみつに含まれるボツリヌス菌の芽胞を体内に取り込んでも、他の常在菌との生存競争に敗れてそのまま便として体外へ排出されます。そのため、大人がはちみつを食べてボツリヌス症を発症することは基本的にありません。
しかし、生後1年未満の乳児は腸内細菌のバランスが非常に未熟です。この脆弱な腸管内に芽胞が侵入すると、腸管内で発芽・増殖を始め、強力な神経毒素(ボツリヌストキシン)を大量に産生します。この毒素が体内に吸収されることで神経伝達が阻害され、全身の筋力低下や呼吸麻痺を引き起こすのが「乳児ボツリヌス症」の恐ろしい病態メカニズムです。日本国内においても過去に生後数か月の乳児がはちみつの摂取によって命を落とす痛ましい事故が発生しており、厚生労働省は「1歳未満の乳児にはちみつを与えないでください」と強い言葉で呼びかけを続けています。