これまで「人文学部は就職に不利」「実社会で役に立たない」といった言説が定説のように語られることがあった。目先の即戦力や数値化できるスキルが重視される経済合理性のなかで、抽象的な思考や古典の探究が利益に直結しにくいと判断されがちだったからだ。過去には文部科学省が国立大学の組織見直しを求めた通知が「人文社会科学系の縮小方針」と解釈され、大きな波紋を呼んだ経緯もある。
しかし、その見方は極めて近視眼的だ。名作映画『いまを生きる』で語られたように、医学や工学、法学が生きていくための「手段」であるならば、詩や美、情熱、そして哲学こそは「人間が生きる理由」そのものである。技術が数年単位で陳腐化する激動の時代において、人間存在の根底を凝視し、問いを再定義する能力こそが、結果として最も持続可能なイノベーションの土壌となる。