1984年3月、兵庫県西宮市の自宅から江崎グリコの社長だった江崎勝久氏が何者かに拉致された。この前代未聞の誘拐劇を発端として、日本中の食品製造業を震撼させる未曾有の犯罪が幕を開けた。犯行グループは自らを怪人21面相と名乗り、企業へ毒物入り菓子をばらまくと脅迫。その指示媒体として多用されたのが、子供の声を録音したカセットテープだった。
「きょうとへむかって、いちのせきをすぎる、ひだりがわに…」——受話器から流れる無邪気な声。警察やメディアをかわしながら現金の受け渡し場所を指定するそのメッセージは、意図的に子供へ文章を読ませて録音されたものだった。自分の発している言葉がどのような犯罪に使われるのかも知らず、指定された速度やイントネーションでひたすら声を出させられた子供たち。その声は、無機質なノイズと共に無線や公衆電話を通じて警察を翻弄した。