地方移住を果たしたベテランミュージシャンに対しては、世間一般から「セミリタイアした」「隠居生活に入った」といった先入観を持たれがちです。しかし木暮武彦のケースにおいて、その見方は完全に的外れです。
彼が富士山麓に居を構えた理由は、都会の商業的プレッシャーから逃れるためではなく、「よりスケールの大きな自然のバイブレーションをアンプやギターから鳴らすため」という極めて前向きな音楽的動機に基づいています。事実、リリースされるアルバムの制作ペースや全国各地の小規模ライブハウスから大規模ホールまでを巡るツアースケジュールは、若手アーティスト顔負けの過密さです。
「ヒットチャートに乗るポップスを作ること」だけが音楽活動の成功指標ではありません。自らの指先から放たれる1音の美しさにこだわり、自然の摂理と共鳴する音楽を作り続ける彼の姿勢は、真のアーティストが辿り着くべき一つの到達点を示しています。