バイ貝を調理する上で、避けて通れないのが「貝毒」に関する正しい知識です。一般に流通する大型のバイ類やエゾバイ科の巻き貝(ツブ貝として流通するものを含む)の体内には、テトラミン(Tetramine)と呼ばれる神経毒素が含まれている場合があります。
厚生労働省の食品安全情報によると、テトラミンは貝の唾液腺(だえきせん)に局在しており、誤って多量に摂取すると食後30分から2時間程度で、酒に酔ったようなふらつき、頭痛、めまい、視覚異常などの症状を引き起こします。死亡事例こそ極めて稀ですが、激しい不快感を伴うため油断は禁物です。
ここで知っておくべき最大の科学的事実は、「テトラミンは加熱調理しても一切無毒化されない」という点です。煮沸しても毒素は分解しないため、物理的に唾液腺を取り除く下処理が唯一の予防策となります。
【図解:バイ貝の内部構造と部位の安全性】
肝(中腸腺)【可食・旨味濃厚】唾液腺(アブラ)【毒:必ず完全除去】足肉(筋肉部)【可食・コリコリ食感】
なお、市場で「小バイ」「黒バイ」として流通する小型種(体長4〜6cm前後の本バイなど)は唾液腺中のテトラミン含有量が微量であるため、丸ごと煮付けても中毒の危険は極めて低いとされています。一方で、体長8cmを超えるような「大バイ」「白バイ」「灯台ツブ」などを調理する場合は、身を取り出した後に黄色〜乳白色の脂のような塊(唾液腺)を左右2個、指で押し出して完全に削ぎ落とす工程が不可欠です。
読者から頻繁に寄せられる「バイ貝の肝は食べられるのか?」という疑問ですが、殻の先端に位置する黒〜緑褐色の肝(中腸腺・生殖巣)は毒素を含まないため安全に美味しく食べられます。濃厚なコクと磯の香りが凝縮された珍味であり、唾液腺さえ正しく区別して取り除けば、捨てる理由は全くありません。