物語のクライマックスとなる五稜郭の戦いにおいて、尾形百之助の行動は多くの読者に強烈な衝撃を与えました。長らく謎とされてきた尾形百之助の目的は、単なる黄金の独占や政治的野心ではなく、「自分は生まれてくるべき人間だったのか」という根源的な問いに対する答えの獲得でした。
物語終盤、暴走する軍用列車の上で尾形はアシㇼパと対峙します。アシㇼパに自らを射たせることで、彼女を「人を殺したことのない清らかな存在」から「自分と同じ殺人者」へ堕とそうと画策しました。しかし、杉元佐一の介入とアシㇼパの放った矢が誤って尾形の右目を射抜いたことで状況は一変します。
矢じりに塗られていたのは致死性の高いトリカブトの毒でした。朦朧とする意識の中で、尾形はかつて自らの手で射殺した異母弟・花沢勇作(はなざわ ゆうさく)の幻影と対話します。これまで「罪悪感など一切ない」と自らに言い聞かせてきた尾形でしたが、幻影の勇作が見せた微笑みによって、自分が勇作を愛し、同時に勇作からも心から愛されていたという決定的な事実に気づかされます。
「俺は…祝福されて生まれた子供だったのか」
自らが「親の愛を知らない欠陥品」などではなく、確かに愛されていたことを悟った瞬間、これまでの冷徹な自己欺瞞は崩壊しました。アシㇼパの手を汚して彼女を殺人者にさせないため、そして何より自らの罪を受け入れた尾形は、銃身を自らの喉元に向け、足の指で引き金を引いて命を絶ちました。これこそが、作中屈指のドラマを生んだ尾形の死亡理由であり、孤独な狙撃手が最後に手にした矜持でした。