食品が腐敗する主な原因は、タンパク質や糖質などの有機物をエサにして細菌やカビが繁殖することにあります。しかし、純粋な水($H_2O$)と微量の無機ミネラルだけで構成されたミネラルウォーターには、微生物の栄養源となる有機物が基本的に含まれていません。製造ラインで加熱殺菌やフィルター除菌が行われ、無菌状態で密閉されている限り、水そのものが腐敗することはない構造です。
では、なぜペットボトル水に1年〜数年の賞味期限が設けられているのか。最大の要因は、ペットボトル素材の気体透過性と計量法の規定にあります。
ペットボトルの主原料であるPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂の分子構造には、肉眼では見えない超微細な隙間が存在します。保管期間が長期に及ぶと、この隙間を通じて内部の水分が空気中へとごくわずかずつ蒸発していきます。日本国内で流通する商品を規定する「計量法」では、表記された内容量に対して許容される誤差(公差)が厳格に定められています。例えば500mlのペットボトルであれば、規定値を超えて中身が目減りした場合、計量法違反となって店頭での販売ができなくなります。メーカーは「表記通りの容量を確実に保証できる限界期日」として賞味期限を設定しているのです。
もう一つの決定的な要因がミネラルウォーターの臭い移りです。ペットボトルの微小な隙間は、水蒸気を外へ逃がすだけでなく、外部の気体分子を内部へ通過させる性質も持っています。香りの強い洗剤、防虫剤、芳香剤、ガソリン、段ボールの湿気などの近くに長期保管していると、化学物質の匂いが水へ溶け込み、飲用に適さない風味に変質してしまうリスクがあります。