ネット上の掲示板や知恵袋などでしばしば見られるのが、「佐藤正午の小説は構成が複雑すぎて難解なのではないか」という疑問です。しかし、この言説には明確な誤解が含まれています。
佐藤正午の文章そのものは極めて平易で、無駄な装飾を削ぎ落とした研ぎ澄まされた日本語で書かれています。難解と感じられるケースのほとんどは、「時系列のシャッフル」や「語り手(視点人物)の入れ替わり」に気付かず流し読みしてしまうことが原因です。
挫折を防ぐための「失敗しない読む順番」は以下のステップが最適です。
- 第1ステップ(入門):『ジャンプ』または『月の満ち欠け』
まずはページ数が手頃で物語の推進力が強い『ジャンプ』で文体に慣れるか、感情移入しやすい『月の満ち欠け』で佐藤正午の構築力を味わいます。 - 第2ステップ(深化):『身の上話』または『リボルバー』
登場人物たちの心理が複雑に絡み合う群像劇の面白さに触れ、視点移動の妙を堪能します。 - 第3ステップ(到達点):『鳩の撃退法』『熟柿』
上下巻にわたる緻密な大長編『鳩の撃退法』に挑み、作家生活の円熟期を迎えた『熟柿』で静謐な人間ドラマの神髄に浸ります。
最初から大作の『鳩の撃退法』に飛び込むと、虚実の多層構造に戸惑う読者も少なくありません。ステップを踏んで読み進めることで、緻密な罠や伏線の鮮やかさを120%味わい尽くすことが可能になります。