ネット上の掲示板やSNSでは、事故直後にセンセーショナルな言説が飛び交いました。代表的な誤解が「鹿島上空に猛毒ガスが充満している」「苛性ソーダ設備が爆発したのではないか」という極端な噂です。
第一に、白煙の視覚的インパクトが過度な恐怖を煽りました。塩酸から生じる塩酸ミストは、煙草の煙よりも光を乱反射しやすいため、ごく少量の漏出であっても巨大な白煙の柱に見えます。火災による黒煙と異なり、水滴状の粒子であるため、散水シャワー設備による水への溶解捕集が極めて有効に機能します。この科学的メカニズムが周知されていなかったことが流言の一因です。
第二に、AGC鹿島工場における苛性ソーダラインとの混同です。同工場は食塩電解プロセスによって苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)、塩素、水素を併産しています。塩酸はこの副生塩素と水素を化合させて製造される誘導品であり、苛性ソーダプラント自体が直接的な損傷や爆発を起こしたわけではありません。危険物を多種扱うコンビナート特有のプロセス連鎖に対する無理解が、不必要なパニック言説を生む土壌となっていました。