文学的な達成として近年世界的に最も注目を集めているのが、1978年の傑作『悪女について』だ。虚飾と謎に満ちた実業家・富小路公子という女性の死を巡り、彼女に関わった27人の人物がインタビュー形式で証言を語り重ねる構成をとっている。
語り手によって公子の像はめまぐるしく変わり、ある者は「悪魔のような女」と呼び、ある者は「聖女のような優しさだった」と回想する。一向に本質に辿り着けないこの群像劇の手法は、SNS上の断片的な情報で他者を断罪しがちな2026年代のネット社会に対する、痛烈なアンチテーゼとして若者世代に刺さっている。「多面的な人間をありのままに捉えることの難しさ」を描いた本作は、現代の海外ミステリーファンやZ世代の読者をも熱狂させている。