2018年秋、日本相撲協会をめぐる激動の中で貴乃花部屋は事実上の消滅という事態に追い込まれた。当時、若手躍進の筆頭格だった貴景勝ら弟子たちは、一夜にして千賀ノ浦部屋へと移籍することになる。環境が激変する中、世間の騒音をシャットアウトし、黙々と稽古に打ち込む姿が強く記憶に残っているファンも多いはずだ。
あの時、師匠である貴乃花光司が弟子たちに遺した言葉は何だったのか。移籍後初となる九州場所で悲願の幕内初優勝を果たした際、貴景勝は「師匠の教えがあったからこそ」と語り、涙を見せることはなかった。どんな窮地に立たされても言い訳をせず、結果で示す。移籍劇の陰にあったのは、土俵上で言葉以上の思いを証明しようとする弟子と、陰ながらそれを見守る師匠の強い信頼関係だった。