恐怖のルーツは生物学的な違和感だけにとどまらない。歴史をさかのぼると、ヨーロッパの宗教史と深く結びついた悪魔学の深淵に行き着く。新約聖書の「マタイによる福音書」では、最後の審判において義者が「羊」、罪人が「ヤギ」として選別される記述が存在し、古くから不従順や異端の象徴として扱われてきた。
中世から近世にかけて、このイメージは決定的なものとなる。雄ヤギの頭部を持つ異端の神バフォメットのアイコンや、サバト(魔女の夜宴)で悪魔が黒ヤギの姿で現れるという民間伝承が定着。人々の心深くに「ヤギ=邪悪な存在」という強力な記号が刻み込まれることとなった。