炊きたては美味しく食べられても、お弁当に入れて時間が経つと肉が硬く縮み、米がボロボロになってしまう現象に悩む方は多いはずです。冷めてもパサつかない決定的な理由は、鶏肉の筋原線維タンパク質(ミオシンやアクチン)の熱変性と、米のデンプン老化(β化)を防ぐ油分のバリア機能にあります。
鶏もも肉を加熱する際、中心温度が65度を超えるとタンパク質の収縮が始まり、75度を超えると細胞内の肉汁が急激に外へと絞り出されます。冷めるとその隙間に脂が固まり、不快な硬さやパサつきの原因となります。これを防ぐための伝統的な知恵が、お弁当に最適な具材の下処理と経緯の中に存在します。昭和初期から行楽弁当や駅弁として発展してきた日本のとりめし文化では、肉を生のまま米と炊き込むのではなく、あらかじめ表面を強火で数分間焼き固める、あるいは熱湯を回しかける「霜降り」という下処理が施されてきました。
皮目をあらかじめ乾煎りすることで余分な酸化脂質を排出しつつ、皮下に豊富なコラーゲンを加熱分解してゼラチン化させます。このゼラチンが米の一粒ひと粒と肉の表面を薄く覆うため、水分蒸発が物理的に遮断され、冷暗所や冷蔵庫で冷やされた後でも驚くほどしっとりとした柔らかな食感が持続します。また、食物繊維が豊富なごぼうを組み合わせる鶏もも肉とごぼうの炊き込みご飯は、ごぼうに含まれるリグニンやクロロゲン酸が肉の臭みを吸着し、独特の野趣あふれる香気成分(ピラジン類)を付与することで、冷めたときの風味低下を根本から防ぐ理にかなった先人たちの発明です。