入隊後の無一郎は、常に上の空で他者への共感を欠いた「合理主義の塊」のように振る舞っていました。しかし、これは冷酷さゆえではなく、過去の記憶を失ったことで自己のアイデンティティが欠落し、本能的に無駄を切り捨てて生きるしかなかったためです。
その殻を突き破ったのが、竈門炭治郎との邂逅でした。「人のためにすることは巡り巡って自分のためになる」という炭治郎の言葉は、かつて父が遺した教えと完全に一致しており、無一郎の心の奥底に眠っていた倫理観を強く揺さぶりました。
刀鍛冶の里における玉壺との交戦時、無一郎は「水獄鉢」と呼ばれる水流の牢獄に閉じ込められ、窒息死寸前の絶体絶命に追い込まれます。彼を救ったのは、無一郎自身が「能力が低い」と切り捨てようとしていた里の少年・小鉄の命がけの送気でした。他者からの無償の献身に触れた瞬間、封印されていた兄の記憶が鮮烈に蘇ります。
記憶を取り戻した無一郎の顔面には、霞がたなびくような「痣」が発現。身体能力は劇的に向上し、上弦の伍・玉壺が繰り出す脱皮後の完全体を「漆ノ型 朧」によって子供扱いし、首を刎ね落としました。合理の仮面を脱ぎ捨て、本来の明るく仲間想いな少年へと精神の再統合を果たした瞬間でした。