単に入浴するだけでなく、その作法や精神性を愉しむ文化的なアプローチも温泉地を後押ししている。放送作家・脚本家の小山薫堂氏が提唱する「湯道」の思想は、茶道や華道のように入浴という日常行為を文化へと昇華させた。お湯に感謝し、身を清め、心を整える。この哲学は、国内の温泉愛好家のみならず、感度の高い旅人の心を捉えている。
日本温泉協会が長年啓発してきた泉質の真正性や源泉掛け流しの価値と、こうした文化的ストーリーテリングが融合した結果、温泉地は「娯楽の場」から「自己と向き合う聖地」へと再定義された。ハード面の改装だけでなく、湯守(ゆもり)が語る湯の歴史に耳を傾ける体験プログラムなど、知的好奇心を満たす仕掛けが各地で続々と生まれている。