1992年に施行された暴力団対策法、そして2011年までに全都道府県で整備された暴力団排除条例の影響は、裏社会の勢力図を根本から塗り替えました。組員であるだけで銀行口座の開設が拒否され、アパートの賃貸契約やスマートフォンの新規契約、クレジットカードの発行に至るまで、社会生活に必要な基本インフラから完全に排除されることになったためです。
警察庁発表の組織犯罪統計によれば、全国の指定暴力団構成員・準構成員の数は年々右肩下がりを続け、ピーク時の数分の一にまで減少しました。しかし、この法規制が生んだ予期せぬ副作用こそが、半グレとヤクザの違いを曖昧にしたまま誕生した、新たな犯罪形態の台頭です。
伝統的なヤクザは盃事による強固な上下関係を持ち、代紋や看板を掲げて縄張りを維持するピラミッド型組織でした。対して、近年猛威を振るう「トクリュウ」こと匿名流動型犯罪グループ手口は、固定された事務所も名簿も持ちません。首謀者は暗号化メッセージアプリ(SignalやTelegramなど)を使い、一度も顔を合わせることなくSNS上で実行役を募集・指揮します。仕事を終えればグループを即座に解散し、痕跡を残さず次のターゲットへ移動します。
実態調査を進めると、トクリュウと暴力団は完全に無関係なのではなく、背後で「資本提供者(スポンサー)」や「ノウハウの指南役」として元組員や現役幹部が暗躍している構図が浮かび上がります。リスクの高い現場仕事はすべて外部の若者に押し付け、吸い上げた巨額の利益だけを上流の組織幹部がマネーロンダリングして回収する、極めて冷酷な分業システムが完成しているのです。