一方で、同じタワーを仰ぎ見ながら、まったく異なる人間の深淵を描き切った金字塔が存在する。リリー・フランキーの自伝的小説『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』だ。
200万部を超える大ベストセラーとなったこの物語は、きらびやかな都会の恋愛模様とは対極にある。炭鉱町から上京し、怠惰な日々を過ごす青年と、彼を無条件の愛で包み込みながら病魔と闘う母。泥臭く、不格好で、しかしどうしようもなく愛おしい親子の歩みを描いたヒューマンドラマの傑作である。
映画化や舞台化、テレビドラマ化とメディアを席巻した本作において、タワーは「夢を抱いて地方から出てきた者が、いつか辿り着くべき場所」として機能していた。病に侵されたオカンを連れて東京タワー (Tokyo Tower)の展望台に登る名シーン。眼下に広がる街並みを見つめながら交わされるささやかな言葉は、日本の原風景として多くの人々の涙腺を決壊させた。