安藤サクラが画面に現れると、映画の空気が一変する。映画『怪物』で見せた母親役の眼差しは、観客の胸を締め付けた。決して大げさな身振りや叫び声に頼るわけではない。ただ子供を見つめ、不条理な社会と対峙するその目元の動きだけで、言葉にならない葛藤と母性が痛いほど伝わってくる。
彼女の魅力は、計算された作為を感じさせない生々しいリアリズムにある。離れ目が持つ独特のアンニュイさと、底知れない生命力が奇跡的なバランスで同居しているのだ。是枝裕和監督をはじめとするトップクリエイターたちがこぞって彼女を求める理由は、目元ひとつで登場人物の過去や背負ってきた運命を観客に想像させてしまう、圧倒的な表現の深さにある。