デビュー作『放課後』での江戸川乱歩賞受賞から数十年のキャリアを経て、著者の筆致はとどまることを知らず進化を重ねてきた。社会派ミステリの重厚さと本格パズラーの軽快さ、さらにはSF的ギミックまでをも自在に操る柔軟性。その長い系譜の最先端に位置するのが今回の作品だ。
過去の名作群で試みられてきた「愛ゆえの犯罪」「哀しき決断」というテーマは、現代の複雑化した社会情勢を反映し、より多面的かつ複雑な色彩を帯びるようになった。過去の傑作を超えられるのは、常に東野圭吾自身でしかないという事実を、私たちは改めて突きつけられることになる。