『チェンソーマン』が本誌からデジタルへと戦場を移した際、一部のライト層からは「アンケートの不振による事実上の都落ちではないか」という邪推の声も上がりました。しかし、当時の客観的な編集状況や掲載順を振り返れば、その見立てが完全な誤りであることは明白です。
第一部終盤におけるチェンソーマンのジャンプ掲載順は、常に看板作品群と並ぶ上位から中堅上位をキープしており、単行本の実売部数も巻を追うごとに右肩上がりを記録していました。では、なぜ発行部数数百万人を誇る紙の旗艦誌から離れる決断が下されたのか。取材データや編集担当者の過去のインタビューから浮かび上がる理由は、大きく分けて2点存在します。
第1の理由は、藤本タツキ先生が求める表現の自由度と作家性の担保です。藤本氏はもともと、商業デビュー作『ファイアパンチ』を「少年ジャンプ+」の黎明期に連載し、その過激かつ不条理な世界観で一躍カルト的人気を博したクリエイターです。紙の『週刊少年ジャンプ』は小学生から中学生もメインターゲットに含まれる全国流通誌であり、PTAや流通コードへの配慮、コンビニ等での陳列基準など、目に見えない倫理的制約が常に付きまといます。第一部でも首の切断や臓物描写、性的な暗喩など「ジャンプ本誌の限界」に挑戦し続けていましたが、第二部でより内省的かつアバンギャルドな物語を描くにあたり、Web媒体のほうが作家のポテンシャルを100%引き出せると判断されました。
第2の理由は、集英社における「少年ジャンプ+」の事業戦略です。当時、アプリ事業を急成長させていた集英社にとって、『SPY×FAMILY』や『怪獣8号』に続く、確実なアクティブユーザー(MAU)を連れてこられるメガヒットIPの看板作家が必要不可欠でした。すでに巨大なファンベースを築いていた『チェンソーマン』の続編をアプリの目玉に据えることは、デジタル購読者を爆発的に増やすための極めて高度な経営判断だったのです。