故人の生活習慣に深く結びついていた嗜好品やお別れの品には、火葬現場ならではの暗黙のルールと細やかな配慮が求められます。
まず、生前に晩酌を楽しんでいた故人に向けた棺お酒タバコ入れ方マナーです。日本酒やビールを棺に入れる際、未開封の缶や瓶のまま棺内に置く行為は絶対に禁止されています。密閉容器は炉内の熱膨張によって激しく破裂し、爆風でお骨が吹き飛ぶ事故に直結します。現場で推奨される代替手法は、「少量の酒を脱脂綿やガーゼ、紙コップに染み込ませて口元に添える」という形式です。タバコについても、箱ごとやカートンで入れると大量の一酸化炭素と灰を発生させるため、火のついていないものを2〜3本、故人の手元や胸元にそっと添えるのが適切なマナーです。ライターやマッチの混入は微量であっても可燃性ガスによる爆発源となるため、絶対に棺に入れてはなりません。
また、棺に入れる食べ物や飲み物全般に言えることとして、「水分のコントロール」が重要です。スイカ、梨、メロンといった水分の多い果物を丸ごと入れると、気化熱によって火葬炉の温度が急低下し、設定された温度プロファイルが狂って骨が脆くなる原因になります。好物だった果物を手向けたい場合は、薄くスライスしたものを一切れだけ、半紙に乗せて添えるのが正しい方法です。
一方、感情面でのトラブルが頻発するのが棺に入れるもの写真マナーです。家族旅行や宴席で撮影された写真を副葬品として納める場合、現在も生存している人物が一緒に写っている写真は避けるべき、という風習が根強く残っています。民俗学的な俗信(「生きている人の魂が引っ張られる」という迷信)に過ぎない側面もありますが、親族の中に不快感や不安を覚える方が一人でもいる場合、葬儀後の親族トラブルに発展するケースが見受けられます。生存者が写っている写真を手向けたい場合は、故人のみの肖像画風にトリミングするか、裏返しにして封筒に入れる、あるいは生前の感謝を綴った手紙に差し替えるといった配慮が、現場のディレクターからも強く推奨されています。