突然の心肺停止を引き起こす要因は、大きく「心原性」と「非心原性」の二つに大別されます。医療機関の統計によると、成人の心肺停止における約6割から7割は心原性が占めています。
心原性の代表格は急性心筋梗塞や重篤な不整脈です。特に、心室が小刻みに震えて血液を送り出せなくなる心室細動(VF: Ventricular Fibrillation)や、無脈性心室頻拍(pVT)は、突然死の主因として知られています。この状態に陥ると、脳への血流は一瞬で途絶え、傷病者は数秒から十数秒で意識を失い昏倒します。
一方の非心原性としては、食物や異物による気道閉塞(窒息)、溺水、重度のアナフィラキシーショック、頭部外傷や大量出血を伴う交通外傷、脳卒中(くも膜下出血など)、低体温症などが挙げられます。いずれの機序であっても、最終的には循環不全と低酸素状態が同時に進行し、心停止と呼吸停止が重なる「心肺停止」へと帰結します。
人体において最も低酸素状態に弱い臓器が「脳」です。心拍停止からの時間経過と蘇生率の関係を示した「ドリンカーの救命曲線(カーラーの救命曲線)」が示す通り、心停止から約3分が経過すると脳細胞の不可逆的破壊が始まります。約4分で生存率は約50%まで急落し、5分を超えるとたとえ心拍が再開しても重度の中枢神経障害が残る危険性が極めて高くなります。
心拍再開を果たしたあとも、集中治療の現場では心停止後症候群(PCAS: Post-Cardiac Arrest Syndrome)という巨大な壁が立ちはだかります。長時間の虚血に晒された全身組織に血液が再灌流することで、活性酸素の発生や全身性炎症反応、脳浮腫が誘発される病態です。救急医学の統計では、病院着手後に心拍が再開した症例であっても、PCASによる多臓器不全や脳死状態により、退院に至らず亡くなるケースや植物状態に陥るケースが全体の高割合を占めることが報告されています。いかに早く血流を再開させ、脳虚血の時間を1秒でも削るかが予後を左右する絶対条件です。