術後数ヶ月から数年が経過した段階で、「また白内障が再発したのではないか」「手術が失敗だったのではないか」とパニックに陥る人が少なくありません。しかし、一度摘出した水晶体が再生して再び白内障になることは医学的にあり得ません。この現象の正体は、術後合併症として極めて頻度の高い「後発白内障」です。
白内障手術では、水晶体を包んでいる透明な袋(水晶体嚢)の後ろ側を残し、その中に人工レンズを固定します。この残された後嚢に、わずかに残った水晶体の上皮細胞が増殖して濁り膜を形成するのが後発白内障です。術後数年以内に約10〜20%の割合で発症するとされています。
主な自覚症状は、術後に一度はクリアになった視界が再びすりガラス越しのように白く霞む、光が乱反射して眩しくなる、視力が低下するといったものです。ただし、この症状を恐れる必要は全くありません。後発白内障の治療には大がかりな再手術は不要で、外来の診察室で「YAGレーザー」と呼ばれる特殊な光線を数分間照射するだけで完了します。濁った後嚢の中央に小さな穴を開けて光の通り道を再生させるため、痛みもなく、処置の翌日には元のクリアな視界が劇的に回復します。
それよりも深刻なのは、取り返しのつかない白内障手術で後悔した理由の根本原因です。術後患者へのアンケートや医療事故・紛争の相談事例を分析すると、不満を抱く患者の9割以上は「手術手技の失敗」ではなく、「術前のカウンセリング不足による認知の不一致」に起因しています。
具体的には以下のような心理的・環境的ミスマッチが決定打となっています。
「多焦点レンズを入れれば、20代の頃のような自由自在な視力が蘇る」と過剰な期待を抱いてしまい、実物のわずかなコントラスト低下に落胆するケース。あるいは、長年強度近視で「手元がメガネなしで見える状態」に慣れ親しんでいた人が、良かれと思って遠方焦点の単焦点レンズを選んだ結果、スマートフォンの画面が一切見えなくなり強烈なストレスを抱えるケースです。一度目の中に固定した眼内レンズを取り出して交換する手術は、目への侵襲やリスクが極めて高いため、安易なやり直しは効きません。