喜多川歌麿「ビードロを吹く女」モデルの正体と切手価値の真相

喜多川歌麿「ビードロを吹く女」モデルの正体と切手価値の真相

話題沸騰中の 喜多川歌麿「ビードロを吹く女」モデルの正体と切手価値の真相について、多角的な視点を整理して公開しています。

「ビードロを吹く女」を目にした多くの人が抱く最大の疑問が、「この女性は実在した有名人なのか」という点です。歌麿といえば、浅草の難波屋おきたや両国の高島おひさといった市井の看板娘、あるいは吉原遊郭のトップに君臨する花魁(おいらん)を描いた作品群で名を馳せました。しかし、本作におけるモデルの正体は特定の著名人ではなく、裕福な町家の少女、すなわち江戸時代の町娘を典型化した姿であるというのが美術史における定説です。

その明確な証拠が、彼女の髪型と着物の装いに刻まれています。頭髪は少女特有の初々しさを残した「結綿(ゆいわた)」に結われ、赤い鹿の子絞りの手絡(てがら)が華やかにあしらわれています。身にまとう着物は、歌舞伎役者・初代佐野川市松が流行らせた黒と赤の市松模様の小振袖。帯は質素ながら粋な格子縞で締められており、当時の裕福な商家の娘が正月に晴れ着として身につけるリアルなファッションスタイルを忠実に反映しています。

版画の上部にあるシリーズ名『婦女人相十品(ふじょにんそうじゅっぴん)』は、当時流行していた「人相見(人相占い)」のパロディ仕立てで女性の性格や階層を描き分けた連作です。本作に添えられた本来の題名は「ポッピンを吹く娘」(あるいは「ビードロを吹く娘」)。歌麿は単なる容姿の美しさだけでなく、少女特有の無邪気さや、少し背伸びをして流行のガラス玩具に夢中になるあどけない心理状態そのものをカンバスに定着させました。遊女のような媚びや大人の色気とは対照的な、日常の一コマを生きる等身大の女性像こそが本作の神髄です。

中村 さくら
著者

中村 さくら

エンタメ・カルチャー業界の深掘り取材を得意とし、現場のリアルな声をお伝えします。