高齢期の年金相談で最もトラブルになりやすいのが、「事後重症請求」をめぐる誤解です。事後重症請求とは、障害認定日時点では症状が軽かったものの、その後加齢や病状の進行によって症状が悪化し、障害等級に該当した場合に行う申請手続きを指します。
国民年金法および厚生年金保険法において、「事後重症請求は65歳に達する日の前日(65歳の誕生日の前々日)までに請求を行わなければならない」と明確に規定されています。ネット上の掲示板やSNSでは「何歳になっても症状が重くなれば申請できる」といった不正確な言説が散見されますが、これは明白な誤りです。70歳になって脳梗塞を発症した、あるいは72歳で変形性膝関節症が悪化して車椅子生活になったとしても、初診日が厚生年金未加入の65歳以降にある場合は、障害年金の門戸は完全に閉ざされています。
したがって、70歳以上の方が挑戦できる実質的な戦いは、すべて「初診日65歳前の要件と客観的証明」の一点に集約されます。日本年金機構の公式審査基準において、初診日の特定は極めて厳格であり、「おそらくこの時期だった」という主観的な記憶や医師の推測だけでは一切認められません。初診病院で発行される「受診状況等証明書」が原本として提出できるかどうかが成否の境界線となります。
ここで立ちはだかるのが、医師法第24条第2項が定める「カルテ(診療録)の5年保存義務」です。70歳以上の請求者が60歳前後の初診日を証明しようとする場合、10年以上の歳月が経過しているため、病院側ですでにカルテが破棄されている事態が頻発します。このカルテ廃棄の壁を突破するためには、診察券、当時の調剤薬局のお薬手帳、健康診断の記録、過去の入院・手術同意書、さらには身体障害者手帳の申請時に提出した診断書の写し(自治体保管分)など、間接的な客観証拠を丹念に掘り起こし、年金機構の基準に沿った「第三者証明」を構築する綿密な立証作業が不可欠となります。