端座位をとらせる際、介助者が最も警戒しなければならない身体変化が、急激な循環動態の破綻です。臥床状態から上体を起こすと、重力の影響で血液が下肢や腹部内臓の静脈プールへと急速に移動します。健常者であれば交感神経が瞬時に反応して末梢血管を収縮させ、血圧を維持しますが、高齢者や長期臥床者ではこの自律神経反射が鈍麻しています。
その結果引き起こされるのが「起立性低血圧(起立性調節障害)」です。一般に、座位や立位をとった直後から3分以内に収縮期血圧(上の血圧)が20mmHg以上、または拡張期血圧(下の血圧)が10mmHg以上低下する場合を指します。脳血流が瞬時に低下し、目の前が真っ暗になる眼前暗黒感、めまい、意識消失発作(失神)を引き起こし、そのままベッドから転落する危険があります。
事故を未然に防ぐため、端座位における観察項目とバイタル変化を体系化しておく必要があります。
観察すべき兆候は数値だけにとどまりません。患者が「あくびを頻発する」「生あくびが出る」「額や鼻の頭に冷汗(じっとりとした脂汗)をかいている」「顔色や口唇色が蒼白になる」「返答が遅れ視線が合わなくなる」といったサインは、脳虚血が切迫している決定的な予兆です。パルスオキシメーターでの経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)測定や脈拍数(徐脈あるいは急激な頻脈)の推移も見逃せません。
これらを未然に防ぐ起立性低血圧の予防策としては、段階的なギャッチアップが不可欠です。フラットな状態からいきなり端座位にするのではなく、ベッドのリクライニング機能を使い、30度、45度、60度と段階的に角度を上げ、各段階で数分間ずつ生体反応を馴染ませていきます。
さらに、起き上がる直前に足首の底背屈運動(足首を手前と奥にパタパタ動かす運動)を行わせ、ふくらはぎの「筋ポンプ作用」を働かせて下肢の血液を心臓へ送り返しておく手技も極めて効果的です。重度の方には、下肢に弾性ストッキングを着用させたり腹帯を巻いたりして、物理的な静脈うっ滞を防ぐ臨床的アプローチを併用します。