ネット上や自己啓発本では、「泣くことはデトックスになる」「涙活(るいかつ)でストレスを解消しよう」といった言説が頻繁に語られます。確かに、感動的な映画を観て自発的に流す涙には、交感神経から副交感神経への切り替えを促し、ストレスホルモン(コルチゾール)を体外へ排出するリフレッシュ効果が認められています。
しかし、取材に応じた精神科専門医は「感情を伴わない病的な涙と、感動による涙を同一視してはならない」と警鐘を鳴らします。
本人が悲しみも感動も自覚していないのに流れる涙は、カタルシス(感情の浄化)をもたらしません。むしろ、泣いた後にも胸の重苦しさや混乱、疲労感だけが残り、精神的な消耗を加速させます。「泣いたからスッキリしたはずだ」と思い込み、限界に達した肉体をさらに鞭打って働かせ続けることは、症状を重篤化させる典型的な失敗パターンです。
また、「もともと感受性が豊かで涙もろい性格だから」と矮小化するのも極めて危険な誤解です。長年培われた気質と、ここ数週間〜数ヶ月で突如頻発するようになった涙腺の緩みは明確に区別しなければなりません。以前は平気だった他人の些細な一言で決壊したり、テレビの何気ないCMを見て涙が止まらなくなったりするのは、感受性の問題ではなく、脳の疲弊による感情の脱抑制です。「自分の心が弱いからだ」と自責の念に駆られる必要は微塵もありません。