成蔵のとんかつを語る上で欠かせないのが、雪のように淡い色合いを誇る「白いとんかつ」の存在です。一般的なとんかつがきつね色に揚がるのは、高温の油によって衣に含まれる糖分やアミノ酸がメイラード反応を起こすためです。しかし、店主の三谷成藏氏はあえてその常識を覆しました。
三谷氏が確立した技法の根幹は、特注の糖分を抑えた粗挽き生パン粉の使用と、110℃前後の極めて低い温度でじっくり火を通す低温調理にあります。油の中で泳がせるように静かに火を入れ、最後は油から引き上げて余熱で芯まで熱を浸透させる緻密な時間計算が施されています。
この工程により、衣は油を吸いすぎることなくサクッと軽やかな食感を維持し、内部の豚肉は水分を逃さずジューシーなロゼ色に仕上がります。「揚げる」というよりは「油の中で肉の水分を使って蒸し焼きにする」感覚に近く、豚肉の細胞を壊さずに旨味エキスを閉じ込める高度な職人技が凝縮されています。