スクリーンの裏側で起きていた役者たちのドラマもまた、壮絶を極めた。主演のウィラード大尉を演じたマーティン・シーンは、過酷な環境と役作りの苦悩から36歳の若さで心臓発作を発症。一時は生死の境をさまよい、カトリックの最後のお告げを受ける事態にまで陥った。オープニングで彼が見せる、泥酔して鏡を割り血を流すシーンは、演技を超えた本物の叫びである。
一方、物語の核心であるカーツ大佐を演じたマーロン・ブランドの挙動は、制作現場をさらなる混乱へと陥れた。事前の約束を破って脚本を一切読まずに現場へ現れたブランドは、役柄にそぐわないほど巨大に太り上がっていたのだ。途方に暮れたコッポラは、彼を暗闇の中に配置し、シルエットと顔のアップのみで撮影する演出法を考案。怪演とも評されるカーツ大佐の圧倒的な存在感は、土壇場の窮地から生まれた偶然の産物だった。