アイドルが花道やトロッコから客席を見渡す際、視界に入ってくる情報量は膨大です。暗闇の中で強烈なスポットライトを浴び、激しいフォーメーションダンスや歌唱を続けながら観客のうちわを視認する時間は、実質わずか0.3秒〜0.5秒程度に過ぎません。この極小の時間枠で「文字」として脳に届くかどうかが、ファンサをもらいやすい決定的な理由となります。
認知心理学における「視認性(見つけやすさ)」と「可読性(読みやすさ)」の実験データによると、画数が多い複雑な漢字(例:「涼」「優」「翔」「輝」など)は、30メートル以上離れた距離において線の隙間が黒くつぶれ、塊(ノイズ)として知覚されやすい傾向があります。一方、画数が極端に少なく適度な余白を持つ「ひらがな」(例:「りょう」「ゆう」「しょう」)は、輪郭線の形状特徴が瞬時に脳内の言語処理領域へ到達します。舞台上のタレントが「あ、自分の名前だ!」「あそこにリクエストがある!」と判断するまでのラグが圧倒的に短縮されるのです。
さらに、視覚的な印象としても、ひらがなは丸みを帯びたフォルムが親しみやすさや愛嬌を感じさせます。ライブ現場でのフィールド取材でも、「漢字の硬いフォントよりも、ひらがなで『〇〇くん』『すき』と書かれたうちわのほうが、パッと見た瞬間に反応を返しやすい」と語るステージパフォーマーの証言が複数寄せられています。遠距離からでも文字が潰れず、0.1秒で意味を届ける武器として、ひらがなは極めて合理的な選択肢といえます。