大河ドラマ『真田丸』において、物語前半から中盤の主役級の牽引役となったのが真田昌幸を演じた草刈正雄でした。かつて1985年のNHK新大型時代劇『真田太平記』で次男・真田信繁(幸村)を熱演した草刈が、約30年の時を経て父・昌幸を演じるというキャスティングは、発表当時からオールドファンの胸を熱くさせました。
脚本を担当した三谷幸喜は、従来のステレオタイプな「陰湿な謀略家」としての昌幸像を大胆に刷新。家族を愛しながらも、乱世を生き残るためには平然と前言を撤回し、大名の間を渡り歩くチャーミングで油断のならないリアリストとして描き出しました。現場のインタビュー取材でも草刈は「三谷さんの脚本がとにかく面白く、毎回台本を開くのが楽しみで仕方がなかった」と述懐しています。
なかでも視聴者の心を掴んだのが、昌幸が作中で幾度となく放った名言「おのおの、ぬかりなく」です。作戦の伝達を終えた後、低く響く美声と鋭い眼光で引き締めるこのフレーズは、実は脚本のト書きと草刈正雄のダンディズムが見事に融合して生まれたものでした。SNS上では放送のたびに「今週のおのおの、ぬかりなく出た!」「明日からの仕事もぬかりなくこなそう」といった投稿が殺到し、現代のビジネスパーソンに向けた金言としても広く定着しました。
昌幸が劇中で世を去った第38回「昌幸」の放送後には、Twitter(現X)のトレンド上位を関連ワードが独占。いわゆる「昌幸ロス」がネット上で爆発し、視聴者から「パッパ(昌幸の愛称)がいない真田丸を見るのが辛い」「偉大な親父の背中が消えて呆然としている」といった悲鳴に近い反響が巻き起こる異例の事態となりました。