奇怪な外見ゆえに「食べたら毒があるのではないか」「どんな味がするのか」という疑問を持つ読者も少なくありません。結論から言えば、ニュウドウカジカに毒性はありません。
実際に混獲された同属のカジカ類を調査・試食した研究者や漁業関係者のレポートによると、その味は「極めて淡白で旨味が薄く、水分過多なゼラチンを噛んでいるよう」と評されます。筋肉繊維が発達していないため、魚特有のプリッとした歯ごたえはなく、鍋に入れて煮込むと身のほとんどが溶け出して縮んでしまいます。食用としての商業的価値はほぼ皆無であり、市場に流通することはありません。
一方、全国の水族館における飼育状況はどうでしょうか。沼津港深海水族館やアクアマリンふくしまなど、深海生物展示に定評のある施設でも、ニュウドウカジカの「生体展示」を目にする機会は滅多にありません。
水族館関係者の証言によると、底引き網で引き揚げられる過程で激しい水圧降下と摩擦を受け、網から揚がった時点ですでに皮膚組織が破壊され致命傷を負っているケースが大多数を占めます。仮に生きた状態で水槽へ搬入できたとしても、100気圧前後の超高圧と2〜4℃の低水温、そして暗黒環境を完全に再現した特殊水槽を維持し続けるコストと技術的ハードルは極めて高く、現時点では「標本展示」がメインとなっているのが実情です。