インターネット上で時折見受けられる素朴な疑問に、「『米屋』という屋号なのに、なぜ米ではなく羊羹や最中ばかりを売っているのか?」というものがあります。米粉を使った煎餅屋と勘違いして来店する旅行者も少なくありません。
この謎を解く鍵は、創業以前の家業にあります。諸岡家はもともと成田山参道で「米穀商(お米屋)」を営んでいました。成田山への参詣が庶民の娯楽として大流行した明治時代、参拝客が長旅の疲れを癒やすための甘味需要に着目した諸岡長蔵氏が、米穀商の暖簾を受け継ぎながら和菓子製造へと大胆な事業転換を果たしたのです。つまり、屋号に刻まれた「米屋」の二文字は、創業のルーツと誠実な商売の原点を忘れないための誓いの証なのです。
また、「スーパーや量販店で見かける大衆的な羊羹と何が違うのか」という点についても明確な差が存在します。安価な量産品では増粘剤や香料が多用されることがありますが、なごみの米屋が誇る上級ラインでは、北海道産のエリモショウズや極上の寒天、純度の高い白双糖を用い、熟練の職人が鍋肌の気泡のはじけ方を目視で見極めながら何時間も練り上げます。この丁寧な火入れ工程(煉り)によって、舌の上でざらつくことなくスッと溶け、小豆の芳醇な余韻だけを残す洗練されたテクスチャーが生まれるのです。