煙突の維持管理と安全基準は、住宅の薪ストーブにとどまらず、日本の産業インフラや古民家リノベーションの現場でも深刻なトピックとなっています。
産業用設備においては、大気汚染防止法および建築基準法第12条に基づく工場煙突点検義務が厳格に課されています。ボイラーや焼却施設から排出される有害物質の濃度測定はもちろんのこと、高さ数十メートルに及ぶ鉄筋コンクリート造や鉄骨造の煙突は、地震や台風による倒壊を防ぐため、ドローンや打音検査、赤外線サーモグラフィを用いた外壁のひび割れ・中性化診断が定期報告義務として制度化されています。
さらに、近年の中古住宅リフォーム市場や空き家解体現場で社会問題化しているのが、煙突解体アスベスト費用の急騰です。1970年代から1990年代初頭にかけて建てられた住宅の暖炉や集合住宅の集中暖房用煙突、あるいは工場・銭湯の煙突内壁には、耐熱性・断熱性を高める目的で「石綿(アスベスト)含有耐火モルタル」や「煙突用断熱材(カポスタック等)」が多用されていました。
大気汚染防止法の度重なる改正を受け、煙突を解体・撤去する際には、有資格者による事前の石綿含有調査が完全義務化されています。もし煙突内にレベル2あるいはレベル1に相当するアスベスト成形板や吹付け材が確認された場合、煙突周囲を完全に隔離シートで密閉し、負圧集塵機を稼働させながら湿潤化して撤去しなければなりません。
その結果、通常の煙突撤去費用が15万〜30万円程度で済むはずの工事が、アスベストの特別養生・特別産業廃棄物処分費用によって80万〜150万円以上に跳ね上がる事例が多発しています。中古住宅を購入して煙突を撤去しようと考えている方は、事前インスペクションでの石綿調査が金銭的防衛の必須条件となります。
なお、煙突という言葉は日本の風俗史や業界俗語にも深く根づいています。古くはタクシー業界において、メーターを倒さずに乗客を乗せ、収受した運賃を着服する不正行為を「エントツ(メーターが上がらない、煙突のように突っ立っている)」と呼んだ歴史があり、辞書や語源アーカイブにもその用例が残されています。古今東西、煙突は人々の暮らしと産業の節目に様々な形で存在感を放ってきました。