多くの保護者が最も恐れるのが、ネット上で流布する「シャフリングベビー=発達障害・自閉症の予備軍」という言説です。結論から述べれば、シャフリングという移動様式そのものが自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)を決定づける医学的根拠は存在しません。
なぜこのような噂が広まったのか。背景には、小児発達外来を受診する発達障害児の一部に、乳幼児期の「いざり這い」や「運動発達の遅れ」が併発していた後方視的記録が、ネット掲示板やSNS上で過剰に単純化されて拡散された経緯があります。
小児神経専門医の臨床データによると、シャフリングベビーの主要因は以下の3点に集約されます。
- 良性の筋緊張低下(Benign Congenital Hypotonia):病的な筋無力症ではなく、体幹の筋肉の張り(トーヌス)が生まれつき少し緩やかな体質。
- 感覚過敏(特に足底):足の裏がフローリングや畳などの冷たさ、硬さに触れる刺激を嫌う触覚防衛反応。
- 家族性・遺伝的要因:両親のいずれかも乳児期に歩行が遅く、同様にいざり這いをしていたという家族歴が約30〜40%に見られる。
自閉症との識別において小児科医が注視するのは、足の動かし方ではなく「社会性・情緒的コミュニケーションの成立度合い」です。目がしっかり合い、あやすと声を出して笑い、欲しいものを指差して親と視線を共有(共同注視)できるのであれば、運動経路の違いだけで自閉症を疑う必要はありません。