大河ドラマ『青天を衝け』が視聴者を惹きつけた最大の要因は、渋沢栄一の経歴そのものが持つ規格外のドラマ性にあります。武蔵国血洗島(現在の埼玉県深谷市)の藍農家・豪農の長男として生まれ、尊皇攘夷思想に傾倒して高崎城乗っ取りを企てた過激派青年が、運命のいたずらによって一橋家の家臣となり、やがて幕府の使節団としてフランス・パリ万博へ派遣される――。この目まぐるしい身分の変遷と視野の拡大は、冒険小説顔負けのダイナミズムを誇ります。
さらに脚本を手掛けた大森美香氏は、渋沢栄一の視点だけでなく、最後の将軍・徳川慶喜の視点を並行して走らせる「複眼構造」を採用しました。幕末の複雑怪奇な政局を、農民発祥のリアリズムと将軍家の苦渋の決断という2つの軸で描くことで、従来の討幕派(薩長)中心の歴史観とは全く異なる鮮烈な幕末像を提示したのです。SNSやレビューサイトにおける評判やネットの反応を見ても、「幕末の歴史がこれほど分かりやすく心に刺さったのは初めて」「経済と道徳を両立させようとした栄一の哲学が胸に迫る」といった熱い支持が多数を占めました。
また、本作は「合本主義(多くの人々から資本を集めて公益を図る仕組み)」という近代資本主義の根幹を、机上の空論ではなく生身の人間の情熱として映像化しました。500以上もの企業設立と約600もの社会公共事業に関わった怪物の原点に迫る人間ドラマとしての完成度の高さが、幅広い層の知的好奇心を刺激し続けた理由です。