検索エンジンで本フレーズを調べる際、最も頻発しているトラップが、少女漫画・テレビアニメ作品であるそれでも世界は美しい作品情報との混同です。椎名橙による同作は、『花とゆめ』で長期連載され、雨を降らせる能力を持つ「雨の公国」の姫ニケと「晴れの大国」の太陽王リヴィウスの絆を描いた王道ファンタジーです。タイトルこそ酷似していますが、長田弘の詩作品とは制作背景もジャンルも全く異なります。アニメ版の主題歌や劇中歌を探しているユーザーが誤って詩集のページに迷い込む事例が後を絶ちません。
また、もうひとつの深刻な誤解として、相田みつをの有名な書「うつくしいものを 美しいと思える あなたの こころが 美しい」と長田弘の詩を同一視してしまうケースが挙げられます。前者が「個人の心のあり方」に焦点を当てた主観的な自己認識の言葉であるのに対し、長田弘の「世界は美しいと」は、個人の心の清濁とは無関係に、世界の側がすでに豊かさに満ちて存在しているという「客観的な世界への信頼」を歌ったものです。
長田弘の手記や生前のインタビューによると、みすず書房から刊行された詩集『世界は美しいと』の編纂期、詩人は急激に変貌する都市風景と、人々の会話から情緒的な語彙が削ぎ落とされていく事態に強い危機感を抱いていました。「世界は言葉で作られている。ならば、貧弱な言葉遣いは私たちの生きる世界そのものを貧しくしてしまう」という強い信念が、あの平明でありながら研ぎ澄まされたセンテンスを生み出したのです。