「本によって自分の誕生花が違う」「Aのサイトではバラなのに、Bのアプリではガーベラになっている」――誕生花を調べた誰もが一度は抱くこの疑問の正体は、誕生花の決め方と歴史的経緯を把握することで氷解します。
結論から言えば、誕生花には世界共通の公的基準や国際機関による公式認定は一切存在しません。これが「誕生花が複数ある理由」の核心です。現在流通している誕生花は、各国の文化、気候風土、さらには商業的なプロモーションが複雑に絡み合って形成されたモザイク画のようなものなのです。
誕生花の原型は、古代ギリシャ・ローマ時代にまで遡ります。「花や木にはそれぞれ神からのメッセージが宿り、日々の暦を司る守護神と植物が呼応している」という自然神秘主義がそのルーツです。その後、19世紀初頭のフランスで貴婦人シャルロット・ド・ラトゥールが著した『花言葉』がベストセラーとなり、花言葉文化がヨーロッパ全土へ爆発的に普及しました。
日本にこの文化が本格的に流入したのは明治時代以降ですが、決定的な転換点は昭和後期から平成にかけての「生花流通の近代化」でした。ヨーロッパの原典をそのまま日本の暦に当てはめようとすると、致命的な問題が生じたのです。すなわち、「ヨーロッパと日本では四季のズレがあり、その日に花屋の店頭に並ばない」という流通上の不都合でした。
このギャップを埋めるため、日本の生花関連団体、生花店チェーン、園芸愛好家グループ、さらには各出版社が、日本でその時期に入手しやすい旬の園芸品種を中心に「独自の365日リスト」を相次いで策定しました。代表的なものだけでも、日本生花通信配達協会(現・JFTD花キューピット)や各著名フラワーデザイナーが監修したリストが並立しており、どれも間違いではなく「拠って立つ選定基準が異なる」というのが業界の実情です。