母親に過ちを告白し、促されてエーミールへ謝罪に向かった「僕」を待っていたのは、激しい怒声や暴力ではなく、底冷えするような軽蔑の視線でした。エーミールが発した「そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな」という台詞は、本作のなかでも屈指の名場面として知られています。
エーミールは決して感情を乱さず、主人公を殴ることも罵倒することもしませんでした。ただ淡々と、冷笑を浮かべながら主人公を観察するように見つめます。このエーミールの心情と理由を読み解くと、彼の持つ潔癖さと冷徹な道徳観が浮かび上がってきます。
模範少年であるエーミールにとって、規則を破り、他人の部屋に侵入して大切な品を壊す行為は、理解の範疇を超えた「低俗な悪事」でした。怒る価値すらない存在として主人公を完全に見切り、道徳的な優位性から冷淡に軽蔑したのです。殴られるよりも重い精神的な断罪を受けた主人公は、救いようのない絶望の中でその場を立ち去るしかありませんでした。