アイヌ文化における「カムイ」とは、天空に座す絶対的な全能の神を意味するのではない。動物、植物、火や水といった自然現象、さらには人間が作り出した道具に至るまで、人間を取り巻くあらゆる存在に宿る「精神」や「働き」を指す。カムイは人間に恵みをもたらす一方で、ヒグマのように時に猛威を振るう脅威(ウェンカムイ)にもなり得る。人間とカムイは対等なギブ・アンド・テイクの関係にあり、敬意を欠いた振る舞いをすれば相応の報いを受けるという厳格な倫理観が根底に存在する。
作中において「ゴールデンカムイ(黄金の神)」というタイトルが暗示する伏線は極めて深い。金塊そのものが人間を狂わせる「魔物」としてのカムイなのか、それとも北海道の土地や未来を守るための「祝福」なのか。アシリパの父・ウイルクが遺した暗号と金塊の行方は、単なる富の争奪戦にとどまらず、アイヌの土地と文化をいかに後世へ繋ぐかという「カムイの意図」を体現していた。旅の途上で杉元やアシリパが下した決断は、まさに現代にも通じる共生と尊厳の問いかけとなっている。