炭とんの暖簾をくぐると、まず迎えてくれるのが鼻腔をくすぐる力強い炭の香気です。同店が競合他店と一線を画す最大の要因は、徹底した素材選定と火入れの職人技にあります。仕入れる豚肉は、脂の融点が低く甘みに優れた国産銘柄豚を中心に厳選。肉の繊維の太さや赤身と脂身の黄金比率を見極め、部位ごとにミリ単位で厚みを変えてカットされています。
取材で見えてきたのは、熱源に対する妥協なき執念です。遠赤外線効果の高い最高級の紀州備長炭を使用し、表面温度を一気に1,000度近くまで引き上げて焼き上げます。これにより、外側はカリッと香ばしく、内側にはみずみずしい肉汁を完璧に閉じ込めることが可能となります。さらに、代々継ぎ足されてきた秘伝の醤油ダレは、豚骨と香味野菜の旨味を凝縮させたもので、炭火の煙と混ざり合うことで特有の燻製香を纏います。
「豚肉は火を入れすぎるとパサつき、足りないと脂が重くなる。炭の配置と団扇の風量だけで中心温度を65度に保ち続けるのが炭とんの生命線」と語る焼き手の技術こそが、多くのファンを虜にする揺るぎない理由です。