現代人が最も陥りやすい落とし穴が、「おかし」の音に引っ張られて現代語の「おかしい(変だ・狂っている・異常だ)」と同一視してしまうミスです。
確かに現代語の「おかしい」には「奇妙だ」「怪しい」という否定的なニュアンスが含まれます。しかし、平安時代の「をかし」にはネガティブな不気味さを表す意味合いは原則としてありませんでした。中世から近世へと時代が下るにつれて、「普通とは違っていて興味深い」というニュアンスが徐々に変質し、「滑稽である」「普通ではない=奇異である」という側面に焦点が絞られていったのが国語史の事実です。
古典作品を読む際、あるいは現代の文章で古典を引用する際に「奇怪だ」「不自然だ」という意味で「いとおかし」を捉えてしまうと、作者の真意を180度見誤ることになります。この歴史的な意味のシフトを頭に入れておくだけで、古典鑑賞の精度は格段に研ぎ澄まされます。