ふたりの出会いは、今から20年以上前の学生時代にまで遡ります。出会いの舞台となったのは、小林さんの地元である兵庫県小野市の公立中学校(旭丘中学校)でした。まさに小林祐梨子の旦那は中学同級生という言葉通り、思春期の多感な時期を同じ学び舎で過ごした旧友でした。
当時から陸上界のホープとして全国にその名を轟かせていた小林さんに対し、旦那さんは飾らない一人のクラスメイトとして接していました。中学卒業後、小林さんは名門・須磨学園高校から豊田自動織機へと進み、日本選手権優勝、そして小林祐梨子は北京五輪代表へと駆け上がっていきます。世界の頂点を目指して過酷な重圧と孤独に立ち向かっていた現役時代、二人は別々の道を歩んでおり、頻繁に連絡を取り合う間柄ではありませんでした。
転機が訪れたのは現役終盤、度重なる足の故障に苦しみ、引退の二文字が現実味を帯びていた時期でした。当時の心境について、小林さんは過去のインタビューや手記で次のように振り返っています。
「走れなくなったら自分には何の価値もないんじゃないかと、暗闇の中にいるような感覚だった」
心身ともに限界を迎えていた彼女を救ったのが、同窓会をきっかけに再会を果たした現在の夫でした。彼は小林さんを「世界のコバヤシ」として特別扱いすることなく、中学時代と何一つ変わらない飾らない笑顔で迎え入れ、ただじっくりと彼女の苦しみや愚痴に耳を傾け続けたといいます。競技成績という条件付きの評価ではなく、人間・小林祐梨子そのものを無条件に肯定してくれる存在が、どれほど彼女の心を救ったかは想像に難くありません。
2015年に惜しまれつつ現役を引退した小林さんは、その約1年後となる2016年3月に婚姻届を提出。挫折と葛藤の先で手に入れたのは、利害関係のない純粋な信頼で結ばれた結婚の馴れ初めだったのです。