文法上、「わかりました」は動詞「わかる」の連用形に丁寧の助動詞「ます」の過去形「ました」が結びついた正統な丁寧語です。決して間違った日本語ではありません。それにもかかわらず、ビジネスシーンにおいて上司や取引先への返答として「失礼」「不作法」と判定されるのは、謙譲語と丁寧語の使い分けにおける敬意の深さと、言葉の成り立ちに起因しています。
大手転職情報サービス「doda」をはじめとする複数のキャリア支援機関が発信する調査データやマナー指導の現場においても、「わかりました」は敬語の分類上、相手に対する敬意の度合いが最も低い丁寧語に留まると一貫して指摘されています。丁寧語は「話し手が聞き手に対して丁寧に述べる」ための表現であり、自分自身の立場を低くして相手を高める効果(謙譲効果)を持ちません。
さらに決定的な理由は、語彙が持つ認知心理的なニュアンスにあります。「わかる(判る・解る・分る)」という動詞は、本質的に「対象の構造や意味を頭の中で咀嚼し、判定する」という話者主体の認知的作業を指します。そのため、目上の人間から指示や指導を受けた際に「わかりました」と返答すると、無意識のうちに「あなたの言った内容の妥当性を、私が理解・判定して差し上げました」という上から目線の響きを帯びてしまうのです。悪気はなくとも、受け手である上司や顧客の無意識下には「評価された」という違和感が残り、これが「無礼だ」と感じられる根本的な要因となっています。